「海を見る人」 (小林泰三 / ハヤカワJコレクション)

ホラー作家による奔放な想像と緻密な計算によって作られた異なる法則を持った世界の物語。
7編収録、340ページ。


小林泰三氏の作品には常にSFのマインドが紛れており、それがスパイスとしてきいているものが多いのですが、この本に収録された作品はそのSF面が自己主張をしたものになっているのが特徴です。
ただ、私には読みにくい作品があったことも書いておきます。
以下感想。


「時計の中のレンズ」
円筒形世界における少年の成長物語。
爽やかというよりは、やや苦さを含んだ青春もの。
ややSFでなくてもいい話かもしれませんが
背景世界は緻密な描写ですごさを感じさせます。


「独裁者の掟」
二つの世界の片側に現れた独裁者と大使の娘。
こういった作風はあまりSFでは見られないような気がします。
だけどカリヤの我がままさや世間知らずっぷりには驚きだ。
わざとやってんのかと思ったくらい。


天獄と地国」
重力というものの概念を失った人類の物語。
タイトルがすごくうまい。
世界観全てを表現している。


「キャッシュ」
超長期宇宙渡航を果たすために編み出された技術、
疑似的にみる夢の技術の物語。
小林氏独特の世界が崩壊していく感覚を味わえる作品。
もともと虚構の世界だったわけで崩壊するのは当然かもしれませんが
それにしても…


「母と子と渦を旋る冒険」
ピンときませんでした。


「海を見る人」
時の流れが違う世界の少女を愛した少年の物語
表題作にふさわしいSFならではの仕掛けに満ちた青春物語。
読んで真っ先に思い付く民話があるかもしれませんが
あれとそのまんま逆になっているところが面白い。


「門」
ストーリをうまくまとめられません。
語彙が不足している証拠でしょう、くやしい。